AKANE
「わたしだってなりたくてなったんじゃない・・・! あんなとこへなんか絶対戻らないから」
 唇をきつく結び、朱音は握り締めた拳を震わせながら抗議する。
「そうはいきません。陛下がそう仰るのであれば、わたしも当初の約束を破らざるを得ない」
 すっと立ち上がったアザエルは、ゆっくりと小柄の騎士ユリウスを振り返った。
 その氷のような目に、ユリウスはごくり空気を飲んだ。
「その者をここで殺してしまいましょうか?」
 朱音は咄嗟にアザエルの服を引っ張った。
「なにするつもり!? 何もしないって言ってたじゃない!」
 水を滴らせながらふっとアザエルは不適な笑みを浮かべた。
「サンタシの使者を二人とも殺してしまえば、陛下がこのようなところへ足を運ばずともよいではないですか」
 これにはルイも驚きを隠せず、
「閣下!」
と、叫び出していた。
 この冷徹な男ならば、本当に二人を殺してしまいかねない。
「そんなことしたら、サンタシと戦争になるよ!?」
 朱音が必死になって止めようとするにも関わらず、アザエルは落ち着いた表情のまま、先程放り投げた湾曲した剣に手を伸ばす。
 ユリウスは、魔力を封じられてはいても、相当の腕の持ち主であろうアザエルの攻撃に備えて、剣の柄に手を掛けた。
「確かに・・・。しかし、国が国王を失うのであれば、国は滅びたも同じこと」
 手にとった剣を片手に持つと、その湾曲した刃についた血を指先で絡め取る。
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