AKANE
 クリストフは瞬時にこの暗闇の中で何があったのかを読み取ると、部屋の隅で蹲(うずくま)る朱音の影に、船のひどい揺れをまるで感じさせない程素早く 駆け寄った。
「さ、アカネさん、私達の部屋に戻りましょう。ここは危険です・・・。ほら、私に掴まって・・・」
 朱音の肩に触れた途端、クリストフはぴくりと手を止めた。
「アカネさん、貴女、震えて・・・?」
 力の入らない朱音の腕を抱えると、クリストフはぐっとその腕を自らの肩に回させ、なんとか立ち上がらせる。
「おい! 貴方は一体誰なんだ!? それは俺の知っているアカネなのか!?」
 フェルデンは二人の元に歩み寄っていく。
しかし、クリストフはそれを許さなかった。
「私はアカネさんの友人です。今はそれだけしか申し上げられない」
 朱音を担いだまま、ゆっくりと部屋から脱出していくクリストフの背中に、フェルデンは強く問い掛けた。
「なぜだ! 」
 クリストフは小さく潰いた。
「それは、彼女が貴方に会いたいと願わないからです。貴方は悲しみのあまり、あまりに盲目になりすぎている。もっと心の目で物事を見てみてください。そうすれば・・・真実が自ずと見えてくる筈です」

 二人が立ち去った後、フェルデンは揺れる船室で、しばらく頭を抱えて座り込んでいた。
 またずきりと肩の傷が痛み始めた。さっき崩れた荷を身体で受け止めた際にまたぶつけたようだった。
「アカネ・・・、一体どういうことなんだ・・・」



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