AKANE
「とにかく、その魔術の効力が切れるのはかけた本人にしかわからない。ぼくから言えるのは、それを掛けた奴ってのが、相当の魔力の持ち主だってことくらいだ」
 ロランの服を引っ張っていた朱音の手がスルリと解けるのがわかった。エメは心配そうな表情のまま、カップにティーを注いでいる。
「だって・・、ロランもフェルデンもあんまり来てくれないじゃない・・・」
 しゅんと俯く朱音は年下の筈のロランよりも不思議といくらか幼く見えた。
「お前! 殿下のことを呼び捨てに・・・!」
 真っ青になって叫ぶ。
「フェルデンがそう呼べって」
 ぶつぶつと膨れっ面で朱音は呟いた。
「ロラン様、アカネ様の言っていることは本当のことです。フェルデン殿下は確かにアカネ様にそのように呼ぶようにと日々仰っています」
 エメが困ったような笑いを浮かべながら、ポットをテーブルの上に静かに置いた。
「さあ、ハーブティーが入りましたよ。ロラン様もどうぞお掛けになってくださいな。サンタシが誇るリリーの葉とチチルの実を燻して作ったハーブです。ストレスを緩和してくれる効果もあるんですよ」
 本当にこの娘の気配りにはいつもながら感心してしまう。
 ロランも渋々エメが促す椅子に腰掛ける。
「護衛を任された僕はまだしも、国王直属の騎士団の指揮を任されるフェルデン殿下がお前のような卑しい者にこれ程お気を掛けてくださるなど、この上なく幸せなことだと思えよ? 今は国も緊迫した状態なんだ。お忙しい身であられることに変わりはない」
 カップを手にとると、ロランはふんっと鼻を鳴らして口をつける。
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