AKANE
足には未だ包帯が巻かれたままだが、今ではすっかり塞がって、歩くことに不便を感じることはなくなった。
 この城に来てからというもの、朱音はこうして以前から夢に描いていたようなドレスを着させて貰い、朱音の身の周りを世話してくれる侍女のエメと、この部屋で一日の大半を過ごしていた。
 初めは怪我のせいもあってそんな暮らしも苦痛とは思わなかったが、城の中の者にあまり朱音の姿を晒すことを良しとしなかったヴィクトル王の命により、部屋の外へ出ることさえも厳しい制限を加えられ、何もしないで部屋に篭り続けなければいけない状況が続いていた。
 朱音はいい加減そんな状況にうんざりし始めていた。
 部屋のノックの音が聞こえ、朱音の護衛を任された術師のロランが顔を出す。
「ロラン!!」
 朱音が退屈から連れ出してくれる救世主を見つけたとばかりにロランの元に駆け寄る。
「・・・そんな目で駆け寄られても僕は何もしないからな」
 鬱陶しそうにしっしっと払いのける真似をするロランは可愛らしい顔に似合わずのなかなかの毒舌少年だった。
「ロラン、わたし、いつ元の世界に戻れる? ねえねえ、いつ??」
 自分よりも少し背の低い少年のローブの裾を掴むと、朱音はくいくいと引っ張った。
「だから何度も言ってるだろう!? お前はゴーディアに狙われているんだ。この城に張られた結界内から外に出た途端、お前に掛けられた魔術を察知して、すぐさま敵の追手に連れ去られるのが落ちだ。せめて魔術の効力が切れるまではここでじっとしていろ」
 まだ声変わりのしていないロランの声は、朱音の弟、真咲のことを思い出させてくれる。
「じゃあ、いつになったらその魔力の効力ってのがなくなるの? こんなところにずっと閉じ込められて、わたし頭がおかしくなりそうだよ!」
 ロランはぷいと朱音に背を向けた
「お前は本当に頭の悪い女だな。そんなこと僕にわかる筈ないだろ! だいたい、僕がその掛けられた魔術を解こうとしたことも既にフェルデン殿下から聞いているだろう!」
ロランは国王お気に入りの術師で、自身もその能力に自信を持っていた。それなのに、朱音にかけられた魔術が解けないということでひどく自尊心が傷ついているようであった。
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