AKANE
 ふと見えたベリアルの横顔はひどく涙で濡れていた。しかし、見る男全てを虜にしてしまう程の可憐さを持ち合わせていた。
「あの子を・・・、あの人の子であるクロウを息子だと思ったことは一度もありません。あの子を見ていると妬ましくて仕方が無いのです・・・! わたくしも自分の子を産みたかった・・・!」
 黒曜石の瞳を見開き、クロウは持っていた黄色い花をパサリと床に落とした。
 ベリアルはクロウの母だった。
「あまり思い詰めるな、また発作が起きてしまう・・・」
 ベリアルを支えるように抱く男は、幼いクロウと瓜二つの、恐ろしい程美しい顔をしている。
「どうしてあの人ばかりが何もかも手に入れてしまうのです・・・! わたくしが陛下の妻なのに・・・、あの人には陛下の愛も、その愛の証さえも・・・」
 クロウはひどく恐ろしい事実を知ってしまったのだ。
 愛した母ベリアルは、実の母ではなかったということを。そして・・・、自らが母に愛されていないばかりか、疎ましい存在だったということを。



 いつの間にか眠ってしまっていたらしい。夢を見ていた。
 それは、嵐の晩に見たものと同じ、幼いクロウの記憶。とても切なく悲しい記憶。
 この間の嵐の晩のように、魔力が使えればと思い、一晩中意識を集中させようと努力し続けた朱音だったが、あのときの力はあれっきりで、いつの間にやら疲れて眠ってしまったのだ。
「ん・・・」
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