AKANE
 クリストフは彼女に語りかけた。
「君も一人かい? 自由はいいね・・・、けれど時に虚しい・・・」
 自由を選ぶと同時に、彼は多くを捨ててきたようだった。一人ぽっちの白鳩は、彼の心に共鳴したのかもしれない。

 しかし、白鳩は少年王の姿を見つけることに苦労していた。
 なぜなら、ここはリストアーニャ。彼はどこか空からは見えにくいところに閉じ込められているのかもしれなかった。空からは同じような民族衣装を身につけたリストアーニャの女性達や、荷馬車がたくさん行き交い、その中から彼を探し出すのは至難の業である。
 クリストフ自身もそのことをよく理解していた。だからこそ、白鳩が少年王を見つけられないでいる間も、文句一つ言わず街の人々から地道に情報を得ようと努力し続けていた。
「明後日の奴隷の競り市はどこで行われるかご存知ですか?」
 街ゆく人々の中には、人身売買で辛い思いをした者も少なくなく、そう尋ね歩くクリストフを軽蔑の目で見つめたり、碌に返事をしない者もいた。仮に返事をしても、その辺りの貧乏商人では競り市の正確な位置まで知らない場合が多く、やっと得た情報は、国の北の辺りだと大まかなことだけだった。
(まずいな・・・、明後日までになんとか間に合わせなければ・・・)
 もし競売にでもかけられて、所有者ができてしまえば、また話がややこしくなってしまい兼ねない。その為、クリストフは何としてもその前に、朱音を取り戻さなければならなかった。
(仕方がありませんね、手っ取り早く空からそれらしい場所を探す方法を取るしか無さそうですね・・・)
 日は既に傾き始めていた。
 長時間の飛行はできないクリストフだったが、そうも言っていられない。彼は風を起こしても問題ないように、人や建物などが無い場所を求めて歩き始めていた。
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