AKANE
「旦那~~~~~!!!!」
 裏返りそうな声が聞こえ、クリストフはふと振り返る。
「良かった・・・! 捜してたんすよっ」
 汗びっしょりになりながら、息を切らしたボリスが古ぼけた時計棟から駆け降りてくるところだった。ボリスの前方を白鳩がパサパサと円を描きながら飛び回っている。朱音を見つけられないでいた代わりに、ボリスを探してきてくれたようであった。
「旦那、アカネ嬢から頼まれたんす。旦那を競り市まで連れて行ってくれって・・・」
 予想外の人物の登場に、クリストフはきょとりと目を瞬かせた。
「ボリス、あなた、アカネさんと一緒じゃなかったんですか?」
 うっと言葉に詰まったボリスが気まずそうにもじもじと両手の人差し指をくっつけたり離したりしながらクリストフの表情を伺う。
「えっと、その・・・。旦那が帰ってくるのが遅いんで、アカネ嬢に外の様子を見てくるように頼まれちまって・・・、そしたらタイミング悪く奴隷売りの奴らが来やがったもんで・・・」
 片眉を吊り上げると、クリストフは腕組みをする。
「なるほど。出るに出られなくなって、そのまま隠れていたと・・・?」
 ボリスはもじもじと指を動かしながら、情けない顔でこくりと小さく頷いた。
「まあ、あなたの立場も分からないでもないですが・・・。一応こうして居場所も探ってくれてきていたようですし、信じましょう」
 クリストフはぐいとボリスの服を引っ張った。
「だとすれば、少しでも早い方がいい。さ、さっそく行きますよ」
 訳が分からず、へ? っと首を傾げるボリスにクリストフは言った。
「高いところは平気ですか?」
 ボリスが何か答えようとした瞬間、びゅうと強い風が吹き上がり、二人は宙へと浮き上がった。

「ぎいやああああああああああああ!!!???」

 ボリスの耳をつんざくような叫び声。
 クリストフとボリスの二人は、勢いよく天に舞い上がる。
「ひいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」
 ボリスの死に際のような悲鳴は強風によって掻き消されていった。
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