AKANE
 フェルデンは滴る汗を拭うことも忘れ、ヴィクトルの隙の無い目をしかと見つめた。
「それには、やはりアカネが大きく関わっています」
 ヴィクトルがぴくりと眉を動かす。
「何、アカネが・・・?」
 大きく頷くと、フェルデンは知り得た情報を包み隠さず話し始めた。
「おれ達がゴーディアに着いた頃、ちょうど“復活祭”と呼ばれる祭りが首都マルサスで行われていました。それに乗じて、城内で何やら不気味な儀式が行われた模様で、その儀式にアカネが贄(にえ)として犠牲になりました。その儀式の直後です、クロウが突如ゴーディアの地に現れたのは・・・。しかし、なぜアカネが儀式の贄として選ばれたのかは未だ不明のままです」
 ヴィクトルは玉座に腰を下ろし、フェルデンの報告に聞き入った。
「また、この頃のゴーディアは、我国との戦を望んではおりませんでした。魔王ルシファーの側近であるアザエルが、我国の領土内であるセレネの森に無断で立ち入り、悪行を働いた件を会談に持ち出すと、元老院はアザエルの行動は一切国とは関係しないと否定し、直様アザエルの身柄をサンタシに引渡すことを決めました」
 途中訊ねたいことはあったヴィクトル王だったが、決してフェルデンの話の腰を折ることはしなかった。
「おれたちはその後、魔力を封じられたアザエルを連れ、帰路へ着きました。しかし、情けないことにおれの肩の傷が悪化し、急遽キケロ山脈からボウレドの街へ立ち寄り、一時休養をよる羽目に・・・。その後、遅れてメトーリアの港からリーベル号に乗船し、サンタシのディアーゼ港を目指しました。後は陛下もご存知の通り、滅多に見ない大嵐に見舞われ、船に航行困難な程のダメージを受けてしまい、それで、近くのリストアーニャの港に・・・」
 数々の旅の困難に、ヴィクトル王はこの二人がよく無事で帰って来たものだと改めて感じていた。
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