AKANE
 ぼたぼたと灰の上に雫が何雫も落ち、染みを作っていく。朱音の意志とは関係無く、涙がもの凄い勢いで溢れていく。
 朱音は救い上げた灰を自らの頬に擦りつけ、くしゃりと顔を歪ませた。心臓を抉り出されたかのような痛み。
 復活の儀式の痛みなど、今考えるとずっと大したことのない痛みのようにも思える。
 大好きだった気の優しい従者の少年は、跡形も無く朱音の前から消え去ってしまった。「陛下」と呼ぶ少年らしい声や、霞がかった綺麗な灰の目や髪を見ることはもう二度と叶わない。
 朱音は悲しみという感情を塞き止めることなど到底できはしなかった。
 ファウストは先程よりも確かに強い魔力を得ていた。自らの炎でルイを飲み込んだことで、心優しいあの少年の魔力さえも自らの力に変えてしまったのだ。
「さて、クロウ陛下。今度はあんたの番だ」
 朱音の頭上に手を翳し、声も無く只々泣き続ける朱音にファウストは言葉を落とした。



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