AKANE

17話 霧晴れ


 朱音の頭上でファウストが手を翳す。
「魔王ルシファーの息子と言え、大したことねぇのな」
 ファウストは、カサバテッラが偶然にして生み出した、至上最高の傑作であった。彼は生まれながらにして、炎を操るという高等魔力を兼ね備え、同時に自らが作り出した炎で飲み込んだ相手の力を吸収してしまうという、特殊能力を持ち合わせていたのである。
(クロウ王、お前に闘志が無いのなら、俺は遠慮なくその力をいただく!)
 ファウストは褐色の手に炎を集め始めた。
「お頭っ!」
 背後の少し離れた位置で突っ立っていた手下の青年が叫ぶ。
 その瞬間、『ゴゴゴゴゴゴゴ・・・』と地鳴りのような音を立てた地面が少しずつ揺れ始め、その揺れは次第に大きなものへと変わっていった。
(なんだ・・・!?)
 次第に立っているのも難しくなり、パラパラと天井の土が通路内に降り始める。
「お頭!」
 バチイと強い静電気が翳していた手に起こり、ファウストは咄嗟に手を引っ込めた。
 固い地下通路の上で蹲っているクロウの身体から、無数の静電気の筋がパチパチと音を立て発され始め、蒼黒の髪先はまるで無重力の空間にいるかのようにふわりと逆立つ。
「ちっ」
 ファウストは、一歩後方へ飛び退くと、電流の掠めた右の手を確かめた。その手は僅かに焦げついている。
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