AKANE
 アザエル・・・、魔王ルシファー・・・、ベリアル王妃・・・。
 そして、真咲・・・、朱音を生み育ててくれた母・・・。そして父。
(そうだったんだ・・・。クロウと新崎朱音は別人なんかじゃなかった・・・。彼の記憶も力も、その全部は今のわたし自身だったんだ・・・)
 視界を遮っていた霧が晴れたかのように、朱音は胸の底から漲る力を感じていた。自分を包み込む、万物の力を。



「・・・ぐっ、クロウ王・・・」
 朱音は血だらけの青年の首からぱっと手を離した。
 もうこの辺りの地下の壁も長くは持つまい。少し離れたところで、数人のドラコの手下たちが呻き声をあげて蹲(うずくま)っていた。
 どさりと硬い地面に転がったファウストは虚ろな目で朱音を見上げていた。
「早くここから逃げて。ここの天井はもうすぐ崩れるだろうから」
 渦巻いていた黒い気体は消え去り、少年王は狂気に満ちた笑みから元の穏やかな表情に戻っていた。
「な・・・ぜ・・・、俺を殺らねぇ・・・」
 朱音ははっきりと、しかし静かに言った。
「わたしはわたしだから」



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