AKANE
「陛下」
 すぐ近くで声がして、朱音は驚いて顔を上げる。
「ルイ!?」
 そこに、優しげに微笑む少年が暗闇の中でいつの間にか佇んでいた。
「陛下、お願いです。いつもの陛下を取り戻してください。いつものお優しい陛下に・・・」
 悲しげに目を伏せるルイに、朱音は思わず首を傾げた。
「え?」
 じっと暗闇の奥を指さすルイの視線の先を追うと、うっすらと不気味な黒い気体が渦を巻いているのが見える。
「あれはなに?」
 きょとんとして朱音はルイに向き直る。
「あれは陛下です」
 ルイの言う意味がわからず、朱音はもう一度じっと目を凝らした。

 禍々しいほどの黒い空気。
 迸(ほとばし)る電流。不気味で高らかな笑い声。
 その手は、すでに意識を手放そうとしている血だらけの褐色の少年の首を掴み、今まさにその首をいとも簡単にへし折ろうとしていた。

「今のはファウスト・・・?」
 異常な出血量。すでに地下道の壁は崩れ、あの空間を保っているだけでも奇跡的と言えた。
「陛下、お願いです。陛下」
 いつの間にかルイによって掴まれていた朱音の手には、預けられていたペンダントが握られていた。
「あれは・・・、クロウ・・・」
 怒りにより我を失い、暴走している少年はクロウに違いなかった。
「今の陛下ならば力の暴走を抑えられる筈です。陛下、お願いです」
 朱音はぐっと手を握り締めた。
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