AKANE
彼の腰には、立派な鞘の剣がさされている。しかし、その剣の刃はまだこの戦場で抜かれた形跡は全く無い。
「ユリウス・ゲイラー、ぼくにまさか剣一本で挑もうってわけじゃないよね? その石は飾りなんかじゃないだろ、それを使いなよ」
 剣を構えるユリウスに、メフィスは勲章として贈られる胸の飾りを指さした。
赤黒く光るその石は、メフィスの言うようにただの石などではなかった。この石は、騎士団で功績を挙げた有能な騎士のみに贈られる勲章で、それは選ばれた騎士しか身につけることを許されていない貴重なものだった。
「この石はただの勲章だ。使う気などさらさらない!」
 きっと睨み返してくる小柄の騎士に、メフィスはぷっと吹き出して笑った。
「その石がただの勲章だって? それはぼくたち魔族への侮辱として受け取っていいのかな? だって、それはぼくたち魔族の血から作った石だろう?」
 メフィスの浮かべる陽気な笑みは、その裏に渦巻く殺気を隠す為のカムフラージュにすぎなかったのだ。浮かべた笑みの下から覗く、サンタシに対する強い敵対心はユリウスをぞっとさせた。
「おれとフェルデン殿下はサンタシの騎士の誇りをかけて、自分の剣の腕のみで闘う。決して、魔族から奪った力などに頼ったりはしない!」
 そう言いきるユリウスに、メフィスは、「ふうん」と返した。
「君がそこまで言うんだ、もう無理には勧めないことにするよ。だけど、ぼくは魔術を使わないからって手加減なんかしないよ」
 翳した手の指を僅かに動かすと、石壁を壊していた植物の蔦が、めきめきと音を立てて地中を潜り、ユリウス目掛けて動き始めた。
「!!」
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