AKANE
「おれはサンタシ騎士団第一隊隊長ユリウス・ゲイラー、フェルデン・フォン・ヴォルティーユ殿下の部下だ。これ以上サンタシの領土に踏み入らせる訳にはいかない! おれがここでお前を倒す! 名を名乗れ!」
 モスグリーンの鋭い視線に、ゴーディアの騎士は馬の向きを正面に向き直らせた。
「ああ・・・。君があの珍しい庶民出の騎士か・・・」
 遠目から見た鎧姿で分からなかったが、男はすらりとした身長の割にひどく華奢な身体つきをしていた。ユリウスの参入で、すっかり石壁を砕く攻撃は中断されてしまっている。
 二人の背後では、まだパラパラと崩れた石壁が砂煙を巻き上げて僅かに崩れていた。石壁の上には投石兵と弓兵が待機していたが、これ以上の長居には限界がきているようだ。あとは下へ降りて、射程内の敵に向けて発射するしかない。
 しかし、未だうようよと海岸に敵船が到着を果たしてきている。
 “庶民出”という言葉に、ユリウスはむっとして男を睨み返した。
「ぼくはゴーディア国、黒の騎士団副司令官、メフィス・ギュンツブルク」
 十七であるユリウスよりはずっと年上であろう彼であったが、その口調は年齢の判別を難しくさせた。
「そうか、メフィス・ギュンツブルク! 悪いがおれたちがここでお前達を止めさせてもらう!」
 威勢よく断言した小柄の騎士に、メフィスは戦場には似合わない程の陽気な笑みを浮かべた。
「なるほど、噂通り威勢がいいみたいだね。でも、ぼくは国王の意思に従っているだけだよ。今の指令官には嫌気が差してはいるけどね」
 意味深な言葉を残して、メフィスはユリウスに向けて右の手を翳した。
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