AKANE
 苦い表情のまま、ライシェルは答えた。
「恐らくは、明日、あるいは明後日までには・・・。数日前に入った連絡では、リストアーニャの港に商船として入ったと知らせを受けていますので」
「そんな・・・! なんとかして止めなきゃ・・・!」
「まだ間に合うかもしれません。我々も、陛下にお供致します。すぐに陣営にいるサンタシの指令と連絡を取らせましょう」


 ぴりぴりとした空気の中、互いの陣の中間点に簡易テントを設け、そこで速やかに上官だけの会合が開かれることとなった。
 甲(かぶと)は取り去ってはいるものの、未だ鎧を身につけたままの姿で、懐かしいあの青年がテントの入り口を潜(くぐ)って中に入って来たときには、朱音は緊張で直視できなかった。
 俯いたまま、彼の存在が静かに用意された椅子に腰掛けるのを感じながら朱音は勘付かれない程度に深く息を吸い込んだ。
「国王自ら会合を申し込むとは、一体どういう狙いだ」
 突然の声に驚き、朱音は思わずその声の主に視線をやってしまって後悔の念に襲われた。
 以前よりも落ち着いた雰囲気を纏ったフェルデンの姿は、いつの間にかすっかり少年の名残も消え、すっかり大人のものへと変わっていた。
しかし、その透けるようなブラウンの瞳は、あの頃となんら変わってはいない。今では耳を覆ってしまう程に伸びた金の髪は、後もう少しで結える日も近いだろう。
 朱音は気を抜けば溢れ出そうになる涙を、懸命に押し止め、平静を装って返答した。
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