AKANE
「それでは、この戦は陛下の指示ではない・・・と?」
ぐっと拳を握り締め、朱音は「はい」としっかりとした口調で答えた。
「もしそれが事実だとすれば・・・」
 こくりと頷くと、朱音はこう付け加えた。
「指示しているのは、ヘロルドです」
 ぴくりと肩眉を吊り上げると、ライシェルは難しい顔をして考え込んだ。
「ヘロルド閣下ですか・・・。初めっからどうもいけ好かないとは思ってはいましたが、まさかこのような行動に出るとは・・・」
 しかしどういうことか、と疑問に思う。たとえそれが最高司令官の座を手に入れたヘロルドの仕業であったにせよ、あの元老院どもが黙ってそれを見過ごす訳が無いというのに。
(ほう・・・、なるほど。あの男、元老院どもの弱みにでもつけ込み、巧く操ったか・・・)
「ですから、お願いです。これ以上多くの人達が無意味な血を流す姿は見たくないんです。ここは引き下がって貰えませんか」
 朱音は必死にライシェルに懸命に訴えかけた。
「それが陛下のお望みならば、我々は喜んで従いましょう」
 意外にも、すんなりと受け入れられた朱音の願いだったが、その直後、ライシェルの口から告げられた驚愕の事実で安堵感はすぐさま打ち消されることとなった。
「しかし陛下、問題が・・・。我々が大人しく引き下がったところで、戦を止めることはできません。陛下、どうしてこの戦場に“最高司令官”の姿がないのかと疑問には思われませんか?」
 はっとして朱音は窓の外に目をやった。
 そうだ、ここに居なければならないヘロルドの姿がどこにもない!
「実は我々は囮なのです。本陣はサンタシの背後から攻め入り、こちらの戦場の為に手薄になった城と城下を一気に攻め落とすという計画なのです。奴はその陣で指揮を・・・」
「!!」
 驚愕して朱音は椅子が倒れてしまったことも気にならない程勢いよく立ち上がっていた。
「それの到着はいつ頃の予定なんですか・・・!?」
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