AKANE
 
 朱音はヘロルドの人の命をものともしない、あまりの暴挙に激怒した。
 エメは、あの平和で美しかった白亜城が地獄と化した、凄まじい光景をその目にしてきたのだ。
 彼女がこうして無傷で城を脱出できたことは、まさに奇跡としか言いようが無かった。
「今頃、城内で働く者のほとんどの者の命が奪われていることでしょう・・・! ゴーディア兵は、武器を持たない侍女や付き人でさえ、ごみの様に切り捨てていきました・・・」
 目いっぱいに涙を浮かべ、震える声でエメが語った。
「わたしは、陛下にこれをフェルデン殿下に代わりに渡すよう申し付かったのです」
 ヴィクトル王が逃げることをせず王室に残ったこと、そして、自分が隠し通路を使ってこの教会まで辿り着いたことを話すと、エメは抱えていたものをフェルデンに差し出した。
「何!? 兄上が城に残っただと!?」
 取り乱した様子で、フェルデンは受け取った紅い上等の布の包みを開けた。
「これは・・・、国璽・・・?」
 代々国王のみが持つことを許される筈の印が、王子である自らの手に渡ったことに戸惑い、フェルデンはもう一方の羊皮紙の紐を慌てて解いた。
 インクの滲み具合から、相当焦って書いた物だということが見て取れた。
 しかし、綴られた文字は、確かに兄であるヴィクトル王のものであった。

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