AKANE
 しかし、サンタシの誇り高き騎士は弱き存在を見捨てることはできはしなかった。
「きゃああああああああ!!!!」
 すぐ真下で、小さな子どもを連れた若い母親が、迫り来る炎弾の餌食になろうとしていた。悲鳴をあげて咄嗟に子を守ろうと庇うようにうずくまる姿。
 朱音が気付いたときには、フェルデンはゾーンの背から飛び降りていた。
「フェルデン!」
 着弾の寸前、金の髪の騎士が親子の前に着地するのが見えた。
『ゴゴゴゴゴゴゴゴ』
 渦巻く煙にのまれ、すぐに親子と騎士の姿は確認できなくなってしまった。
「フェルデンーーーーーーー!!!!」
 朱音は自らが今はクロウだということを忘れ、叫び出していた。

 もうもうと上がる煙の中に、何かが僅かに動くのが見えた。
 地面に大きく空いた穴の中では、炎弾が燻っている。そのすぐ近くの、落下時にぶつかって破壊された建物の瓦礫の下から、ゆっくりと何か這い出してくる。
 這い出してきたのは、真っ白の軍事服のあちこちを焦がしたフェルデンであった。立ち上がった彼は、瓦礫を丁寧に上から取り除いていく。その下からは、気を失ってはいるが、無事な親子の姿が現れた。
 炎弾が直撃する寸前、咄嗟に親子の前に飛び降りたフェルデンが、二人を押し転がすようにしてその場から逃れたのだ。その後、崩れた瓦礫の下敷きになりかけた二人を庇うようにして、フェルデンは自らの背を盾にして二人の命を救ったのだ。
 フェルデンの無事な姿を確認してほっとする朱音だったが、それと同時に一歩間違えれば彼が死んでいたかもしれない、という恐怖を強く感じていた。
 そして、まだ震えは止まっていなかった。
 尚もしきりに赤黒い炎弾が飛び交い、悲鳴は絶えず続いている。一瞬にして失われていく、罪もなき命。そして美しい街並み。
「クロウ! 城へ行くんだ!!」
 フェルデンが地上から声を張り上げた。
 はっとして朱音は震える手を押さえ込み、ゾーンの背から彼をじっと見つめた。
 今の状況下で、ゾーンを着地させて再びフェルデンを乗せて飛び上がることはできそうにもない。そうする時間も、場所も、そして飛び交う炎弾がそうさせてはくれないだろう。
 
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