AKANE
 あちこちに上がる火の手。街が地獄と化そうとしている。
「だけど、ここに貴方を置いてはいけない・・・!!」
 朱音は泣き出しそうな声で言った。
 ここで彼を失う訳にはいかない。残った僅かな時を、彼を助ける為に捧ぐと決めた朱音には、最も辛い決断だった。
「何をしてる! 行け!! 俺もすぐ後から追いかける! 先に行って、これを止めてくれ!!」
 フェルデンの懸命な声に、朱音はぐっと震える手を握り締めて大きく頷いた。
「分かった・・・!」
 彼が初めて朱音にした頼みごと、それは、命をよりも大切なこの美しいサンタシ国を守ることだった。
(なんとかして、これを止めなきゃ!!)
 朱音はゾーンにお願いして、炎弾の当たらない高さを目指し、高度を一気に上げて舞い上がった。
 覆っていた厚い雲の隙間から明るい月明かりが差し込み、巨大鳥を天へと導く光のように、優しく地上を照らし始めている。
 フェルデンはこの惨劇の中、ゾーンの背に乗る華奢な少年王の姿を仰ぎ見て感じていた。その姿が、魔族の王というよりも、まるで救世主のようだと・・・。



< 406 / 584 >

この作品をシェア

pagetop