AKANE
 しかし、ファウストの赤き飛竜はスキュラより一回り大きく、厄介なのは口から炎を噴射するところだ。上のファウストの動きばかりに注意を払っていると、下の赤い竜の攻撃に不意打ちを喰らいそうになる。かといって、この高さと速さの世界では兎に角この赤い飛竜の姿を見失わないこと、振り切られないようにすることに集中する他無い。
「くそっ、これじゃ反撃するどころか、下手に近付くこともできない・・・!」
 フェルデンはもどかしさで拳をぎゅっと握り締めた。
“なんとかしなきゃ”
と考える反面、朱音はこんな状況にも関わらず、襲ってくる強い眠気に懸命に闘っていた。今ここで眠ってしまっては、何の意味もない。朱音はまだここで眠りこける訳にはいかなかった。しかし、それは抗うことのできない強烈なものでもあった。今、朱音はフェルデンとこの世界を守るという強い意志のみでなんとか目を開けている状態である。
「どうした! 最強の魔力を持つ魔族の王と、サンタシ一の騎士が二人揃っていながら、俺に手も足も出ないってか? 俺を力ずくで止めてみろ! さもなきゃ俺はこの国を全て焼き伏せてやるぜ」
 挑発するように、にやりと笑みを浮かべると、ファウストはくるくると空中で赤い飛竜を回転させて急降下していった。
「追うぞ!!」
 フェルデンの声と同時に、ふわりとスキュラの身体が翻り、その後を追うように真っ逆さまに落下していく。羽をぴたりと畳んだスキュラの身体は風の抵抗がほぼ無いかのようにもの凄い速さで落ちていく。
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