AKANE
 言うまでもなく、クロウが指先を動かしただけで、身体から現れた黒い靄が薄いベールを作り出し、スキュラとその背に乗る二人を見事に保護していた。
 自分達の矢による攻撃が、一切届いていないことを知るとザルティスの神兵が地上で慌てふためていている姿が伺える。
 まるで何の障害も無かったかのように地上に降り立ったスキュラと赤き竜から丸く取り囲むようにして立ち塞がった。その兵の手には、どれも二対の蛇が絡みつく紋様が彫られた剣が構えられてる。
 フェルデンはの表情は険しい。思わぬところから突然現れた者達の手で、このサンタシが占拠されてしまったことに、ひどく憤りを感じているようであった。
「君達に忠告する。命が惜しい者は今すぐ武器を置いて降伏して欲しい」
 クロウはスキュラの背から軽やかに飛び降りると、取り囲む神兵達に言った。
「魔の国王の言葉などに耳を貸すんじゃない!」
「そうだ! 我らザルティスの神兵は命を惜しんだりはしない! 貴様の首をとるまではな!!」
 口々に叫ぶ声がし、クロウは黒曜石の瞳を静かに閉じた。
「創造主に代わり、地上界レイシアの幸福と平和の為、死んでもらう!!」
 その声と同時、一斉に神兵達が二頭の竜と二人の若き王、そして魔王の側近に斬りかかった。
「うおおおおおおおおおお」
 大勢の兵達の凄まじい声が上がる。命をも顧みず、そこにいる誰もが自らの正義を信じ闘いに乗じていることは確かであった。
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