AKANE
 さすがはクロウ。確かに、こんなもので罪滅ぼしになる訳ではないが、この青年は何より心の拠り所にしていた魔力を永久に奪われ、そして不老の肉体を得たことで永遠に近い時を、これからずっと刻んでいかねばならないのである。彼にとっては、まさに生き地獄に相違ない。これは彼に対する最も有効な罰なのかもしれない。いつか、彼が自らの手で奪った多くの命について罪の意識をもち、償いたいと気付く日がきたとき、彼に与えらえた“不老”の肉体が刑罰としての効果を発揮するのだろう。
「あんの、くそガキ国王っ!!」
 ファウストは地団太を踏んで怒りを露わにしている。
 フェルデンは感じていた。
 兄ヴィクトルが待ち望んでいた、平和への一歩が確実に踏み出されつつあることを。
「ユリ、クロウ陛下の手配でもうすぐゴーディアから十数隻の船が到着する。王都復興の為の資源と人員を送ってくれたようだ。下の者達に、彼らを迎える準備を整えるよう指示を」
 ユリウスは「はっ」と礼の形をとった。
(クロウが訪国することで、実質レイシア全土に我国とゴーディアの終戦を知らしめ、公に二大国が手を結ぶことが認められることになる・・・)
 亡き兄に向けて、フェルデンは小さく呟いた。
「兄上。兄上の望んだ真の平和が、もうあと少しで実現しそうですよ」
 それを祝福しているかのように、肖像画の中のヴィクトル王が少し微笑んだように見えた。



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