AKANE
「ゴーディアに放っておいた密偵からの情報でまだ確信はないのだが、ルシファー王が死去した可能性がある。それをゴーディアがどうも隠し立てしているようだと・・・。」
「そ、それは本当ですか!?」
 フェルデンは兄王の腕を掴むと、強く揺さぶった。
「これはあくまで推測の域だ。だが、各国の王達が異変を感じ始めているのも事実」
 ヴィクトルは難しい面持ちで頷く。
「実はあの儀式の夜、わたしも何か胸騒ぎを感じてな、お前がアカネを連れて出た一刻半程後に、ディートハルト達に鏡の洞窟へと向かわせたのだ」
 何か言いたそうなフェルデンの顔を見て、ヴィクトルは腕を強く掴む弟の手首にそっと手を置き言った。
「ディートハルト達が着いたときには、既にお前が洞窟脇に血を流して倒れていて、洞窟内も悲惨だったと・・・。生きていたのはお前とロランのみ。ディートハルトは部下にお前達をすぐに城へと運ばせて、自らはアザエルの気配を追ったが、森を抜けてしばらくいったところで見失ったと報告を受けた」
 ディートハルトとは、フェルデンの剣の師であり、フェルデンが尊敬する数少ない人物の一人であった。
 二年前まで、騎士団の指揮官を務めていた屈強な戦士である彼は、すでに六十を迎えたというのに、未だ部下からの信頼も厚く、ヴィクトルのよき相談相手でもあった。
 そんな彼が急に指揮官の地位をフェルデンに譲ることを宣告してから、時は既に二年経ち、それからはヴィクトルによって国内の治安維持を目的とする警備隊長官という任を与えられている。
「ディートハルトが・・・」
 傷を負った自分を助けてくれたのが、嘗ての師である男だったことと、その男を的確な判断で送るヴィクトル王に、フェルデンはひどく感銘を受けた。
「そこでだ。わたしはすぐさまゴーディアに向けて書状を書いた。内容は、我国土内で起きた不祥事を会談でもって御伺いしたい、というようなものだ。その為にこちらから遣いの者を向わせるとも」
 フェルデンは兄王の眼を見つめ、意図を読み解こうと努力した。
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