AKANE
「まさか、その遣いというのは・・・」
 ヴィクトルはこくりと大きく頷いた。
「そう、それをおまえに頼みたいのだ。おそらく、これだけの問題を起こしておきながら、それを拒否するなどゴーディアの元老院の年寄共もさすがにせぬであろう。危険な任だが、行ってくれるか?」
「・・・わかってはいると思うが、会談はただの名目であって、これが主ではない。お前のその目で、国王の生死、国の現状を探ってきて欲しいのだ・・・」
 その後に続く言葉はなかったが、恐らく暗黙の了解で、そのときを狙ってアカネを奪還してくることを許す、ということであろう。
 ほとほと、ヴィクトルの考えには驚かされ、国民に賢王と呼ばれるだけのことはある、とフェルデンは我兄ながら凄いと思った。
「はい、兄上。ぜひその役目、おれにやらせてください!」
 フェルデンの目には確かに希望の火が灯った。
 気落ちする弟を救い出すこと、それこそがヴィクトル王の一番の狙いだったのかもしれなかった。
 重大な任務を背負ったフェルデンは、必ずアカネを取り戻す、という強い決心の名の下に、右手でつくった拳を左胸に引き付け誓いの形をとる。
「ああ。任せたぞ、フェル・・・!」

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