AKANE
“親愛なるサンタシの国王、フェルデン・フォン・ヴォルティーユ陛下。
 貴方はゴーディアとサンタシに平和をもたらした歴史上初めての人間だ。
僕は共に闘った貴方を心から信頼している。だからこそ、打ち明けなければならない。

 二百年前のマルサスの危機で、僕は父から受け継いだ魔力を抑制する術をもたなかった。それを危ぶんだ父が、アザエルに命じ、僕をある儀式により一時的に異世界アースへと魂のみを転生させた。
 僕は約二百年の月日をクロウとしての記憶を一切持たず、全く別の人間として幾度か生まれ変わりを繰り返していた。
 そんな中、父ルシファーがマルサスの危機の際に受けた毒が原因で亡くなり、その側近であったアザエルは父の生前の遺言通り、鏡の洞窟を通じ異世界アースを訪れ、とうとう僕の生まれ変わりの魂の持ち主を探し当てた。それがアカネだ。
 でも、彼女はあくまで普通の家庭に生まれた普通の人間の少女で、彼女には大切な友人や家族もいた。
 けれど、父亡き後のゴーディアの混乱を防ぐ為という僕らの自分勝手な理由で、彼女を無理矢理レイシアへ連れ去り、その魂を僕へと戻す為に彼女の全てを奪う結果になってしまった。
 僕自身の人格が覚醒するまで、彼女は僕の身体の中で存在し続けていた。
 アカネは、僕の中で懸命に生き、そして希望を最後まで捨てようとしなかった。完全に彼女の人格が僕の中から消え去ってしまうその時まで・・・。
 アカネは僕を恨むどころか、かけがえの無い多くのものを残してくれた。
 仲間。心の強さ。優しさ。愛。希望。
 その全てが、僕がいくら欲しても手に入れることのできなかったものばかりだ。
 僕は、彼女をこの世界に連れてきてしまったことや、闘いに巻き込んでしまったことは大きな間違いだったと思っている。
 そして、奪うことしかできなかった僕が、一体彼女に何をしてあげられるだろうと・・・。

 
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