AKANE
「二百年前に行方知れずになっていた魔王様の子息が、再びこの地に降臨されたそうだ。王都はそのこともあって、いつもよりも相当盛り上がってるぞ!」
 男の言葉を聞いた途端、フェルデンの顔が一瞬にして蒼白になったのがユリウスにはわかった。
 まだ悪い知らせと決まった訳ではない、と言おうとしたのも暫時、フェルデンは硬い表情をしたまま全速力で馬を駆け出した。
(まさか・・・! アカネ・・・!)
 肩の痛みも忘れ、フェルデンは無我夢中で馬を疾走させていた。
「殿下! お待ちください! フェルデン殿下・・・!」
 懸命に背後から叫ぶユリウスの声も耳に入らない程、フェルデンの嫌な予感が心の中で膨らみ続けていく。
 ユリウスは、我を忘れる程フェルデンの心を掻き乱すアカネという少女に深く興味を抱いた。


「さあて、クロウ殿下、仕上がりましたよ。鏡をご覧下さい」
 差し出された手鏡をのぞくと、美しく整えられた真っ黒黒髪の少年がじっと鏡の中から朱音を全てを見透かしそうな目で見つめていた。その麗しい少年はまるで、
『お前は誰だ。それはお前じゃない。クロウだ』
と、言っているかのように。
 朱音は鏡から苦い顔で目を逸らすと、鏡を裏返しにしてごとりとテーブルの上に置いた。
「クロウ殿下、お気に召しませんでしたか?」
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