AKANE
「・・・わかった。お受けしよう」
 アザエルは冷笑を浮かべると、掴まれていた詰襟を何事も無かったかのように静かに整え言った。
「では、フェルデン・フォン・ヴォルティーユ殿下。それに騎士殿。その姿ではパーティーに出席できまい。礼服を用意させましょう。夕刻までまだ時間があります。侍女に部屋を用意させていますので、暫しお寛ぎを」



「なんだか今日は騒がしいね。何かあるの?」
 朱音は復活の儀式の日の慌しい城内の様子を思い出し、身震いする。
「ああ、殿下の即位式の準備ですよ」
 霞がかった灰色の目をきらきらと輝かせながら、従者である少年がにっこりと可愛らしく微笑んだ。
「は!?」
 がたりと音を立てて朱音は椅子から立ち上がり、がくがくとルイの肩を揺さぶる。
「何それ!? そんなこと一言も聞いてないよ!? どういうこと!?」
 激しく揺さぶられ、何度も舌を噛みそうになりながらも、ルイはなんとか言葉を紡いだ。
「何、と、申、され、まし、ても、殿、下、が、この、国、の、王、に、なる、ん、で、す、」
 またしても、朱音の意思を完全に無視して、とんでもない方向へと話が進んで行ってしまってる。そのことに腹立たしさを抱き、朱音は掴んでいたルイの肩から手を離すと、バンと大きな音をたててテーブルを両手で叩き付けた。
 大きな音にびくりと飛び上がったルイは、
「クロウ殿下・・・?」
と、恐るおそる顔色を伺っている。
「ルイ、もう我慢できない! 今直ぐアザエルをここに呼んで!」
 灰色の少年は言い難そうに、小さく呟いた。
< 80 / 584 >

この作品をシェア

pagetop