AKANE
 力を持たない人間達は、なんとか魔族の力に対抗しようと、さまざまな行動に出始めた。創造主に与えられた豊かな創造力を駆使し、さまざまな武器や兵器を開発し、魔族に攻撃を開始したのだ。
 魔王ルシファーは、初めはそうした人間の攻撃をいとも容易く退けてきたのだが、あるとき人間が神をも冒涜するような恐ろしい武器を作り出したのだ。
 “魔光石”である。
 その人工的に作られた石は、魔族の人々を攫っては殺し、その血液を収集、凝縮し、結晶化した特殊な石である。
 魔力を秘めたその石を身につけることで、人間であっても自由に魔力を操ることができるようになった。
 しかし、魔光石一つ作るのに、数十人から数百人分もの魔族の血を必要とした。その為、多くの罪無き魔族の民が犠牲となり、人身売買や裏取引に利用されることも少なくなくなった。
 魔王ルシファーは何としても魔族の民を守ろうと、自らの魔力を惜し気もなく使い続けていくことになったのである。

 朱音はルイが少しでも気が紛れるようにと持ってきた歴史本をぱたりと閉じた。
 昨晩のことが頭を過ぎり、ちっとも内容に集中できないでいた。
 習いもしない文字が読めることや、いつの間にかアザエルの魔術なしでもレイシアの人びとと話を交わすことができるようになっていることに、朱音自身奇妙な感覚を持っていた。これはおそらく、クロウの身体が記憶しているもの。
 しかし、今はそんなことを考える余裕など更々無い程に、朱音は苦しんでいた。未だフェルデンの手の冷たさと強い締め付けの感覚が残った首筋に、自らの指を這わせる。


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