マザーレスチルドレン
人工海馬の移植、男の手によってケンイチの脳にマイクロチップが埋め込まれた。


人間の脳には、左右に『海馬』と呼ばれる器官がある。


タツノオトシゴにそっくりの形状をしたその器官は人間の記憶を司る機能を持っている。


海馬は脳の中では小さな器官で、脳全体の一万分の一に過ぎない。


しかし海馬は小さな器官ながら、大脳に入った情報の取捨選択をして、記憶全体をコントロールするきわめて重要な役割を果たしている。


海馬は、パソコンでいえば一時的に情報を記憶するメモリの役割を果たしていると云える。


そして必要があれば、パソコンを終了する前にデータを保存するのと同じように、海馬も記憶を大脳皮質に送って長期記憶として保存する。


大脳皮質というハードディスクに長期記憶されたファイルを呼び出すことも『海馬』の役割であり、それは『思い出す』という作業である。


海馬は人間の記憶の司令塔だと云えるのであった。
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