マザーレスチルドレン
マスターは冷蔵庫から瓶ビールを取り出すと慣れた手つきで栓を抜き、グラスと一緒にカジさんの座るテーブルに置いた。


カジさんは手酌でビールをグラスに注ぐとその泡立って不自然に黄色い液体を一気に飲み干した。


「ふぅぅー、仕事が終わっての酒はやっぱ最高に旨いね」


「よく言うよ、仕事なんてしてないくせに」


マスターは苦笑いしながら呟いた。


「聞こえますよ、カジさんに」


ハルトが心配してマスターに小声でいった。


「あー、ハルちゃんいたの、 わかんなかったよ。そんな隅っこにいるから。大丈夫ちゃんと聞こえってから。オレはねえ昔から耳はいいのよ。


だってさあ、昔ミュージシャンやってたから。まあ、今でも現役のバンドマンだからね」


カジは大声でハルトに話しかける。


「ハルちゃん、オレはねぇ、ちゃんと仕事してるよ。そうだ今やってる仕事のお金入ったらさ、ハルちゃんを寿司屋に連れていってやるよ。
旨いよ、寿司は。こんなしけた店のわけの分からない食い物と違ってさ」


「悪かったね、カジさん。わけの分かんない料理で。ウチの唐揚げは人気メニューなんだよ!」


「そうだよ、カジさんこの唐揚げ定食、最高にうまいよ、食べたことないの?」


ハルトが言った。


「けっ、そんな何の肉使ってるかわかんない唐揚げなんて食えたもんじゃないよ、ハルちゃん」


「でも、マスターの作った唐揚げサクサクしてマジでおいしいよ」
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