マザーレスチルドレン

金魚

ケンイチが十二歳になった小学校最後の冬休みにそれは起こった。


その頃になると学校が休みに入って給食が無い日などは


彼は近くのスーパーで食料品を万引きして飢えを凌ぐことを覚えていた。


その冬初めて雪が降った十二月のある寒い日、


母親は昼過ぎに起きると男と出かけたまま夜になっても帰ってこなかった。


ケンイチはスーパーで万引きしたクッキーを食べながら


いつものようにテレビを見ていた。


テレビでは黒い軍服をきた小柄な男の熱のこもった演説が


一時間以上続いていた。


まだ若いがテレビの画面越しにも強烈な存在感を放っている小男、


この国の首相だった。


ケンイチは退屈してテレビのチャンネルを変えてみたが


放送があっているのはこのチャンネルだけだった。
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