マザーレスチルドレン
「誰を探してる?」
「子供の頃に別れた母親を……
もうここに運び込まれてもいい年齢になってるから」
先程の老人に食事を与えると今日の仕事は終わりだった。
ハルトが働いているこのセンターは常時約三百五十名の老人を収容している。
老人とは言っても施設入居者の平均年齢は四十七歳であった。
このセンターは放射能を直接あびて被ばくした者と放射性物質の
含まれた食物を食べ続けたせいで内部被ばくした者が入居する施設である。
この国の水とあらゆる食べ物には放射性物質が含まれていた。
その汚染された食物を食べ続けた人々の余命は通常の場合の
半分以下になると云われていた。
放射性物質は毎日の食事として口から入り胃や腸、
更に消化吸収されて人体の様々な臓器を少しづつだが確実に破壊していく。
現在この国で生きているの国民の直接被ばく者と内部被ばく者を
合わせた数は全人口の八割に達していると云われている。
その数およそ五千万人。
国民の平均寿命は五十歳に満たないとの試算が発表されている。
この施設に運び込まれてくるのは、放射能毒に犯されて
末期的な症状の死を待つだけの人たちだ。
彼らはこの施設で積極的な治療を受けるわけではない。
死ぬまでの残り僅かな時間をただここで過ごしているだけだった。
町外れの小高い丘に立っているこの施設「丘の上ホーム」は別名、
廃棄物処理場と呼ばれていた。