武闘派
篠塚先輩は私の携帯に、虫唾が走るほどの笑顔を向けた。

先輩の顔が更に近づいて来て、怖くなって私はギュッと目を瞑った。

どうして、どうして私がこんな目に合わなきゃいけないの？

ﾁｭｯ

私の唇に、おそらく先輩のそれが重なった。

せめて頭突きでも出来たら良いのに…。

「…ﾝー」

先輩はなかなか口を離してくれなくて、私はどんどん息苦しくなる。

あぁ、どうしよう。

泣いちゃいそうだ。

なんでこんな人にキスされなくちゃいけないの…？

ﾌﾟﾊｯ

ようやく唇が離れて、息を吸えると思い無意識に目も開けると、まだ降れそうな距離に先輩の顔があって、ゾッとした。

「…っん」

唇を割って入ってきたその感触に、必死に保っていたものがプツンと音を立てて切れた。

「…っ、って！」

私は力一杯先輩の舌を噛んで、私に張り付いていた4人の人を突き放した。

更に私を逃がすまいと道を塞いだ数名の手を思いきり振りはらって、焦った顔の加山先輩の手から私の携帯を取り戻す。

「ちょっと待ちなさいよ！」

後ろに聞こえるいくつもの声を無視して、私は鞄をとって走り出す。

さっきカウンターに座っていたはずの図書委員はいなかった。
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