井上真緒編

そういって、みんな仕事をし始めた。真緒は、田中と京王線の物件の打ち合わせを午前中はして、午後からは、現場に早めに行った。現場は、もうかなりでき上がってきていて、今週で、終わりそうだった。後は、壁紙をはったり、ニスを塗ったりするのが残っている程度だった。ここはリフォームの物件だったので、できあがればもうすぐに売ってしまうのが普通だった。それなので、今日でだいたいの人が、この現場は終わりだった。真緒は、コーヒーと高そうなプリンを買ってきて、みんなをねぎらった。その時に、小倉から電話があって、食事をどうしようといってきた。真緒は、適当に話をあわせたが、その日は行かなかった。会って、別れ話をすることもできたかもしれなかったが、なんか体調があまりに悪すぎた。それに、仮に体調がよくてもいったかどうかは分からなかった。もうこのままあいたくない気もした。仕事が終わって、真緒は、すぐ会社を出た。もう体はへとへとだった。買い物をして、帰ったがいつもより早く帰ってきたので、外は少しまだ明るかった。それなので、ベランダから外を見ていた。夕日がオレンジ色だった。真緒の部屋は、7階建ての4階で、小高い丘から見ているように、景色はそれなりにはよく見えた。なんか穏やかで、ここにあのチアキがいるとは思えなかった。しかし、真緒が見ていた太陽は、真緒の感情と同じで寂しく感じさせるものだった。小倉のこともチリ子のことも、考えたくなかった。そして、カーテンを閉めて明かりをつけると、やはり、チアキが浮かび上がってきた。ただ、チアキを睨み付けてやろうと思った真緒は、チアキの様子がいつもと違うのを一瞬に感じ取った。自分もげっそりしていたが、チアキもそんな風に見えた。

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