記念

母は おじいちゃんの反対を押し切って
高校卒業と同時に迎えにきた父と共に家を飛び出し

父が暮らしていたアパートへ来て
そこから 生活が始まり

結婚式も
ウェディングドレスも
着れないままだったという話を
今日 初めて聞いた。

あたしが 明日の成人式に着る 振袖を見て
そのことを話してくれた。


母は 振袖も着れなかったんだって。

「いいなぁ」

母が 着物を見て またそう言った。

これで 3回目。

その時あたしは、

「でも おかーさん。お父さんとデートしたり、一緒に撮った写真ぐらいはあるでしょ?」

「ないのよ」

寂しそうに笑って言った。

また 母を悲しませてしまったように思ったけど
母は あたしを見て

「デートもできなかったの。それに お父さんは写真に写るのを嫌がってたし。
それに その時は 日曜も仕事で 会えるのは いつも私の学校が終わったほんの少しの時間だけだったなぁ」



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