【短】「好きだよ」~伝えないと決めた想い~Another side
俺にできること
胸ポケットに花の飾りをしているあいつ。
なぜか急に大人びて見えた。
卒業式が創り出した特別な空気のせいかもしれない。
さっき送ろうか迷っていたメールの内容を言い出すことができない俺。
今度は言おうか言わないでおこうか迷ってしまう。
とりあえず会話のきっかけを探してみた。
「お前って、進学だっけ?」
実は答えを知っている。
俺が知ってることをあいつは知らないけど。
「うん。地元の大学。やっぱりママをひとりにはしておけないから」
「そっか。お母さん、元気?」
「元気だよー!
最近じゃあ、あの歌手がかっこいいとかあの俳優がシブいとかあたしより芸能人に詳しいんじゃないかなw」
「なら、よかった。お母さんにもよろしく伝えといて」
あいつの母親とは、少し面識がある。
あいつが、高校生活の中でいちばん苦しい思いをしていたあの時だ。
俺はもう、あいつのあんな顔を見たくないんだ。