小野さんとさくらちゃん
第1話「手をつなごう」
小野さんと並んで歩いていると、時間が止まったような、そんな感覚がする。

風は確かに冷たいのに、マフラーがゆるんでいるのにも気づかずに、私は前だけを見て歩いた。

「ね、あのカフェ、いつも一人で行ってるの?」

「うん。好きなんです、マスターの入れるコーヒーが。」

落ち着いた空間が好きな私は、週に二度ほど駅前の喫茶店ユートピアに通っている。
白髪の可愛らしいおじいちゃんが一生懸命コーヒーを入れてくれるのが気に入っているのだ。

先日、窓際の席でくつろいでいると、店の外から何か覗かれているような気がした。視線を感じ、広げていた小説をパタンと閉じて顔を上げてみたのだが、誰もいなかった。

「あれ、おかしいな。」

首を傾げていると、カランカランと扉を開けて一人の男性が入ってきた。

私の方に向かって歩いてくるその男性を恐る恐る見上げると、大好きなあの人にそっくりだった。

「さくらちゃん。」


どうして名前を?

やっぱり…さんだよね。


「小野さん!…こんにちは。」

こんな所で会えるなんて。

「外から見つけたんだ。相席してもいいかな?」
「もちろんです、どうぞ!」

向かいの椅子に置いていた鞄とコートを慌ててよけ、適当にしていた髪を手ぐしでわしわし整えた。
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