喫茶冬景色
8章つながるわ

喫茶冬景色

――それからしばらくしてだね。

    この店を立ち上げたの。――
 
「あの、マスター。その子の彼氏って名前わかります?」
 
「あの年の頃は親には秘密が多いから私は教えてもらえなかったよ。母親の方は知っていたかもしれないけどね。」
 
「あの、娘さんって…」
 
いや、聞いてどうする?
 
娘が鈴木だってわかっても。
 
「娘はね、鈴木雅美。」
 
「あの、俺…。」
  
「君なんだろ?あのとき来ていた子は。」
 
マスター。
 
「こう見えても、人の反応を見るのは得意でね。さっき眼の色を変えたのが分かったよ。そうか。君か。」
 
俺、なんて言っていいか分からないです。
 
「俺、彼女と別れた後も、忘れられなくて。」
 
「うん。」
 
「それで、雅美って女紹介してもらったりして探して。」
 
「うん。」
 
「でも、彼女は雅美だったけど、雰囲気が似ている別人で。」
 
本当に中途半端だ俺。
 
「ごめんね。探したんだろ?離婚後、彼女たちは誰にも行き先を告げずに出て行ったんだよ。」
 
俺。俺。
 
「…君でよかったよ。」
 
「え?」
 
「ずっと、娘のこと思っていてくれたんだろ?」
 
「…はい。でも、俺は彼女の永遠の恋の最終駅じゃないです。」 
 
「でも、君にとっては永遠。」
 
「…。」
 
「それでいいんじゃないかな。」
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