嘘婚―ウソコン―
父親は待ちあわせのロビーのソファーに座って経済新聞を読んでいた。

陽平がきたことに気づくと、父親は新聞から顔をあげた。

「予定より早いじゃないか」

新聞をたたみながら父親はそう言った。

「遅かったら遅かったでシャレになんないでしょ、父さん」

陽平はフッと笑いながら言い返した。

会社の玄関に場所を移動すると、黒塗りのリムジンが止まっていた。

「早く行きましょう。

お店、予約してるんでしょ?」

陽平が言うと、
「ああ、そうだったな」

父親がリムジンに乗ったので、後から陽平も乗った。

身につけていたニット帽とサングラスを外すと、リュックに押し込んだ。

「どちらまで?」

運転手が聞いてきたので、
「『鉄板ディナー・綾部』まで急いで頼むよ」

父親が行き先を言ったのと同時に、リムジンが走り出した。
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