嘘婚―ウソコン―
この間サイズを測った店の制服に着替えると、垂れている長い前髪を黒いピンで止めた。

千広の心臓は爆発寸前だった。

効果音に例えるとするなら、“バクンバクン”だ。

何しろ、今日は千広にとって初めての日である。

オープンが昨日とは言えど、働くのは今日だ。

園子には悪いけど、ニコニコは無理だなと千広は思った。

うまくニコニコができたとしても、変なニコニコかも知れない。

千広はロッカーの鏡に向かって、ニコニコと笑いかけた。

ダメだ、顔が思った以上にひきつっている。

何だ、この変なヤツは。

「――まじめも楽じゃないよね…」

千広は息を吐いた。

自分は今の今まで平凡に、まじめに生きてきた。

両親が厳しかったと言うこともあるが、やっぱり元から持っていたものでもあったのだろう。

千広はこれから革命を起こす庶民のような気持ちで、更衣室のドアを開けた。
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