嘘婚―ウソコン―
締め切りを催促する担当者からの電話かと思い、何気なく出たのが間違いだった。

「もしもし、周です」

電話越しのその人物に、陽平は舌打ちしたくなった。


そして、現在に至ると言う訳である。

「さすが陽平さん行きつけのお店だわ、ムードがあるって感じ」

麻里子は楽しそうに笑いながら、鴨肉を口に入れていた。

陽平は目の前の料理を何も口にすることができない。

ここに入ってきてからずっと、お冷やばっかり口にしているような気がする。

「ねえ、陽平さん」

声をかけてきた麻里子に、
「――あのさ…」

陽平は話を切り出した。
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