嘘婚―ウソコン―
「えっ…」

急に言われた千広は戸惑った。

そんな千広に陽平は楽しそうに笑うと、
「まあ、いいよ。

ヒロにはヒロの好みがあるだろうし」

アクセサリーを手の中に収めると、ズボンのポケットの中に入れた。

「とりあえず…解決できてよかったよ」

陽平は呟くように言うと、壁にかけてあるカレンダーに視線を向けた。

千広もつられるように、カレンダーに視線を向けた。

カレンダーは8月だった。

「もうすぐだな…」

陽平はチューハイを1口飲んだ。

もうすぐ――陽平の旅立ちのことだ。

9月になったら、陽平はいなくなる。

チクリと、自分の胸が痛んだ音を千広は聞いた。

「俺がいない間の事務所は任せたよ、ヒロ」

陽平にも、音が聞こえたのだろうか?

彼は、励ますように千広に言った。
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