嘘婚―ウソコン―
「財閥の御曹司なら御曹司らしく、大人しく会社でも継げばいいのによー。

何でデザイナーになって、おまけに事務所オープンだ、パリだで…あいつ、ずいぶんいい思いしてなくないか?」

亀山はマグカップに口をつけた。

「俺なんかデザイナーになるために高校卒業と同時に上京したっつーのに、未だに事務所の下っ端だぜ?

やることっつったら、バイトの面倒くらいで…。

あーあ、不公平なもんだな」

亀山は続けて言うと、のけ反るようにソファーにもたれかかった。

「今じゃ下っ端の中では俺が最年長だぜ?

女の世界で言ったらお局様だぜ?

なのにさ、未だにデザイナーの仕事が入んねーんだよ。

ひどくね?

パワハラもモラハラもいいところだよ」

亀山はあーあとあくびするように大きく口を開けながら言った。

「まあ、周くんは元から才能があって小田切さんに見込まれたから…」

なだめるように寺脇が亀山に言った。
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