嘘婚―ウソコン―
そう言った陽平に、
「はっ?」

千広は思わず聞き返した。

あたしだから美味いって、意味が全くと言っていいほどにわからない。

陽平はフッとはにかんだように笑みをこぼすと、
「悪ィ、言い過ぎた。

今のは忘れてくれ」

何かを払うように手を左右に振った。

「はあ…」

忘れてくれと言われても、困る。

人間、そう簡単に忘れるようにはできていないから。

むしろ、忘れてくれと言われても覚えてる。

人間はそんな生き物なのだ。

「1つ、聞いていいですか?」

千広が言った。

「何を?」

陽平が返事をした。
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