嘘婚―ウソコン―
千広のあまりの真剣さに、陽平は笑いたくなった。

自分もこれくらい真剣だったら、彼女を引き止めることくらい簡単だっただろうか。

そう思いながら、
「別にさ、どうしても結婚しなきゃならない事情なんてないよ?」

陽平が言った。

「はっ?」

千広は思わず聞き返した。

事情なんてない?

そもそも結婚に事情なんてものがあるのだろうか?

そう思いながら、
「じゃあ、何で結婚したんですか?

事情があったから、あたしの戸籍を盗んだんでしょ?

あたしと夫婦になったんでしょ?」

思いもよらなかった答えに、千広は戸惑った。

そんな千広に、
「逃げたかったからしただけ」
と、陽平は言い返した。
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