zinma Ⅱ



それにおもわずシギは聞く。


「師匠。
王都の方向がわかるんですか?」


ここは本当に人の寄り付かない山なので、道があるわけではない。

もう少し大きな街へ行かないと街道もないだろう。

それなのに迷いなくレイシアは進んでいくので、シギは疑問に思った。


それにレイシアは、当たり前のようにシギを振り返り、


「ああ、地図は頭に入ってるんです。街の位置や地形とか。

一応地図は持っているんですが、旅に出てから開いたことはありません。」


そう言って腰の後ろに手をまわす。

すると腰に巻いたベルトの後ろに、丸めた地図が取り付けられていたらしく、それを抜き取る。



その地図をシギに渡し、開くように促す。

それにしたがって、シギは歩きながら地図を開く。

それを頭だけ振り返って確認してから、レイシアはまた前を向き、前方を指差しながら言う。


「いまはボニス平原の北にあるアグ山ですね。

あの南に広がるのがボニス平原。
その向こうにあるのがトクルー山。
その脇の川がスル川でしょうね。

ここから南西に進んでいくとミルドナという小さな街があるので、とりあえずそこへ行ってから、西へ続く街道に沿って歩いて、王都に行くつもりです。」



レイシアはすらすらと言う。

シギが持っている地図には、レイシアの言っているとおりの名前が並んでいた。


北の果てに近いところにある小さなアグ山。

その前のボニス平原。

トクルー山に、スル川。

南西のミルドナという街に、そこから西に伸びる街道と、王都。



「………すごいですね。」


思わずそう言うと、レイシアは前を向いて歩いたまま、笑う。


「まあ、修業していたときに、本ばかり読んでいましたから。

いつの間にか覚えてしまったんでしょう。

だから安心して着いて来て大丈夫ですよ。」


レイシアに地図を返しながら、シギはうなずく。






そして改めて、自分が旅立つ広い世界を感じ、思いっきり息を吸った。













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