若恋【完】


「仁お兄ちゃん、その狩野ってひとこの会場内にいる?」

「あ?そりゃいるさ。大神組を脇から支えてる重要なポストにいるんだからな」



「もしかしてあのひと?」


奏さんより少し斜めの後ろにいてろくにショーを見てなかった男。

わたしの頭の隅で何かが引っ掛かっていた男。


品の良さが滲み出る柔らかな物腰でひとり笑いながらグラスを傾ける男。



「あの人ずっと笑ってたの」

「笑ってた?」

「ショーを見てなかったの。ずっと」


今ならわかる。

狩野ってひとがショーをそっちのけで何を見ていたのか。

ショーよりも数段面白いものが見れる。

森内がもし暗殺に失敗しても自分は痛くも痒くもない。
奏さんやお父さんが殺られたら、全部森内のせい。

森内も潰したければ誰にも知られないように密告してやればいい。

すべては森内ひとりがやったこと。


狩野が陰で森内を操っていたことなど誰にも気づかれない。




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