虚飾の国のアリス





カシャッ、カシャッ。


広いスタジオにカメラのシャッター音が鳴り響く。私はそのシャッター音が大好きだ。何とも言えない心地よさ。
その大好きなシャッター音に合わせて、いろいろなポーズをする。それが私の仕事。つまり、私は今旬らしいモデルだ。


「よしっ!!今日はこれで終わりだよ。お疲れ様、明璃!」

「お疲れ様です、ありがとうございます!」


―――明璃。
それは私のモデルの名前。春風明璃(ハルカゼアカリ)、高校二年生。小学生の時からモデルをしている。やっと最近売れてきた、と言う自覚を持てるようになったばかりだ。本名は非公開、誕生日は七月。好きな食べ物はオムライス。

と一般的には公開されている。本当はオムライスなんか好きじゃないけど、乙女っぽく演じなきゃダメなのよね。

撮影が終わり、控え室に戻ろうとした。廊下に私のポスターが貼ってあった。つい最近撮った、化粧品のポスター。そのポスターを見て、私は私じゃない気がした。


「こんなの私じゃない。私は、私はもっと地味なのに……」


ポスターの私は、化粧をバッチリして髪もゴージャスに巻いて。普段の私とは違う。
本当の私はもっと地味なのに。ちなみに私の容姿は、二重の茶色の瞳。髪は癖毛でくりんくりん。スタイルは、まあ普通ってとこ。

「―――少しはあの人に近付けたのかなあ?」

私のポスターの隣に貼ってあるポスターを見た。それも同じ化粧品のポスター。
だけど、雰囲気が違う。
いや、オーラが違うのだ。私は彼女に憧れてこの世界に入った。
彼女の名前は『相原詩織(アイハラシオリ)』そしてこの名前が本名。私の永遠の憧れ。

だけど、彼女はもういない。
四年前に、突如姿を消した。誰にもなにも言わずに。





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「貴方はそれが幸せ?」 真実に迫れば迫る程、見えてくる嘘と絶望。 止まることを知らない破滅と不幸の連鎖。私が今まで見てきた貴方は偽りだった。 「アイツが大事なんだ。 俺にはアイツが必要で、アイツには俺が必要なんだ」 貴方には幸せになって欲しかった。ただひたすら願った。だけど、私の思いは儚く貴方には届かなくて。 「あの時、違う道を選んでたら何か変わってたのかしら」 いつも大事な人を傷付けてしまう弱い自分。動き出した歯車も止まない。 「さあ、これが全ての真実よ。 落胆するでしょう?だって、この国に幸せなんか訪れはしないんだから」 この国の秘密と真実。 それはあまりにも残酷で、私の予想をはるかにこえていた。 崩壊と絶望の到来が近づく。 だけど私はまだそれに気付かなくて。 ゆっくりと、だけど確実に。 残酷なほどに、貴方は優しい嘘を何度も私につく。 ───それは貴方が愛したたった一人の彼女のためだった。 夜道の光みたいに貴方の心の闇を照らしたかったのは事実だから。

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