あの夏を生きた君へ

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それは、午前二時を過ぎた頃だったでしょうか。

今夜も空襲警報が鳴りました。



私はその怪音で目を覚ますと、ぼんやりとした頭に慌てて防空頭巾(※中に綿を詰めて作った布製の頭巾)を被ります。


「明子!いつもと違うの!急いで!」

血相を変えた母に急かされながら、二人で家を飛び出しました。




外に出て私の目に映ったのは、真っ赤な炎の海でした。


逃げ惑う人々、黒煙が上がり、空にはB29(※重爆撃機、大量の爆弾を搭載して長距離を飛べた)の群れが飛んでいます。

ついに、この町にも…焼夷弾(※小型爆弾、高熱で燃焼し広い範囲を焼いて破壊する)が落とされたのです。



手の平に嫌な汗をかいている私の手を、母がぎゅっと握ります。


私たちは防空壕まで必死の思いで走りました。




私は、悪い夢を見ているような気分でした。


現実でなく、これが本当に夢だったならどんなに良かったことか。





真夜中だというのに、空も、地上も、不気味なほど赤いのです。



『死』の恐怖、それをひしひしと感じました。





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