あの夏を生きた君へ





戦後は、戦中より苦しい生活が待っていました。


食料難で配給されたものだけでは足りなかったのです。

農村へ買い出しに行ったり、闇米を買いに行ったりしました。


「戦争はもうたくさん…」と誰もが思っていたことでしょう。



戦地から帰ってきた人たちも少しずつ加わって、焼け野原になった町は復興していきました。

でも、腕や足をなくした男の人も多くいました。





そして、戦地へ行っていた私の兄は紙切れ一枚になって戻ってきました。



母は、それから随分と経ってから、

「あの時、どんなことをしてでも止めていたら…。」

と、泣きだしそうな顔をして言っていました。




戦争が心に残した傷は想像以上に深く大きなものでした。


私は、ずらりと並んだ死体の苦悶の表情を、よく夢に見てはうなされました。

そんなことが、何年も続いたのです。



でも、生きていることへの感謝は忘れませんでした。


幸生くんの分まで生きて。
幸生くんの分まで生き抜く。

兄の分まで生きて。
兄の分まで生き抜く。





命は宝物、
だから私は、彼らの分まで生きて、一日一日を大切にしよう。


そう、思ったのです。






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